賃貸の敷金はいつ返ってくる?退去費用で差し引かれるものと返還されないときの確認方法

賃貸退去後に敷金がいつ返還されるのか精算書を見ながら確認する女性のイラスト

賃貸住宅を退去したあと、

「敷金っていつ返ってくるの?」

「退去費用で全部使われてしまうの?」

「クリーニング代やクロス代を引かれて、ほとんど返ってこない」

と不安になっていませんか。

先に結論をお伝えすると、敷金は「退去時の修繕費として最初から使うお金」ではありません。

敷金は、家賃の未払いや、借主が負担すべき損害などを担保するために貸主へ預けておくお金です。

退去して物件を明け渡したあと、

敷金
- 未払家賃など
- 借主が負担すべき原状回復費用など
= 返還される敷金

という考え方で精算します。

逆にいえば、

借主が負担するべき費用がなければ、原則として敷金は返還されます。

ただし、

  • 返還時期について契約書に定めがある
  • ハウスクリーニングなどの特約がある
  • 借主の故意・過失による損傷がある
  • 未払家賃などが残っている

といった場合には、精算内容が変わります。

この記事では、内装・修繕・原状回復の現場に30年以上携わってきた経験も踏まえ、

敷金から何を差し引くことができるのか

いつ返ってくるのか

返ってこないときは何を確認すればよいのか

を順番に解説します。

「そもそも何が借主負担で、何が通常損耗なの?」という方は、まず原状回復の基本ルールから確認すると分かりやすくなります。

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結論|敷金は「退去費用として全部使うお金」ではない

まず一番大切なところです。

Q.敷金は退去費用として全部使われるお金ですか?

違います。

敷金は、

借主が貸主に対して負う金銭債務を担保するために預けておくお金

です。

代表的には、

  • 未払家賃
  • 借主の責任による損害
  • 借主が負担すべき原状回復費用
  • 契約上、借主が負担することになっている費用

などが例としてあります。

そして、それらを差し引いても残額があれば、その残額は借主へ返還するのが基本です。

つまり、

「敷金10万円を預けたから、退去時に10万円分修繕してよい」

という仕組みではありません。


そもそも敷金とは?民法ではどう決まっている?

現在の民法622条の2では、敷金についてルールが明文化されています。

簡単にいうと、

賃貸借によって生じる借主の金銭債務を担保する目的で、借主が貸主へ渡すお金

です。

そして、

賃貸借が終了し、

さらに物件の返還を受けたときなどには、

貸主は、

預かっている敷金から借主の未払債務を差し引いた残額を返還する

という仕組みになっています。

国土交通省の原状回復ガイドラインQ&Aでも、

未払賃料や借主の不注意による損害などがなければ、敷金は全額返還されるという考え方が示されています。

なお、2020年4月1日より前に締結された契約では、改正民法の経過措置により旧法が適用される場合があります。

古い契約で判断が問題になる場合には、契約時期も確認してください。

賃貸の敷金から未払家賃や借主負担の原状回復費用を差し引き残額を返還する仕組みの図

敷金はいつ返ってくる?

ここは非常によく聞かれるところです。

Q.退去立会いが終わったら、その日に返ってきますか?

いいえ。必ずその日に返金されるわけではありません。

民法では、

賃貸借が終了し、物件を返還したとき

などに敷金返還義務が生じることが定められています。

ただし、

「明渡しから7日以内」
「30日以内」

といった全国一律の日数が民法に定められているわけではありません。

まず確認してほしいのは、

賃貸借契約書です。

契約書に、

  • 明渡し後○日以内
  • 明渡し後○か月以内
  • 精算完了後
  • その他の返還時期

などが記載されていないか確認します。

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、物件の明渡しがあったときは、貸主は敷金を遅滞なく返還するという形になっています。

ですから、

「退去したから今日返して」

というものでもありませんが、

理由も説明されず、いつまでも返さなくてよい

というものでもありません。


敷金から差し引かれる可能性があるもの

では、何が敷金から差し引かれるのでしょうか。

代表的なものを整理します。

内容基本的な考え方
未払家賃差し引かれる可能性あり
借主の故意・過失による損傷借主負担分を差し引く可能性あり
善管注意義務違反による損傷借主負担分を差し引く可能性あり
有効なクリーニング特約の費用差し引かれる場合あり
その他、契約上の借主債務内容を確認

ここで重要なのは、

実際に工事した費用なら何でも敷金から引いてよいわけではない

ということです。

原状回復費用については、

その費用を借主が負担すべきなのか

を先に確認します。

「この傷や汚れは本当に自分が払うもの?」という方は、借主負担・貸主負担の判断方法をこちらで整理しています。

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通常損耗・経年変化まで敷金から引かれる?

Q.普通に生活して付いた傷の修繕費も敷金から引かれるのですか?

原則として違います。

通常の使い方をしていて自然に発生する、

  • 日焼け
  • 経年による色あせ
  • 通常使用による損耗
  • 普通に家具を置いたことによる設置跡

などは、通常損耗・経年変化として、原則として貸主側の負担で考えます。

敷金を預けているからといって、

貸主が次の入居者のために行う通常の修繕費まで、何でも借主の敷金から差し引ける

という意味ではありません。

ただし、有効な特約がある場合は別に確認する必要があります。

敷金から差し引かれる可能性がある費用と通常損耗や経年変化など原則借主負担でない費用の比較図

「部屋を直す工事費」と「敷金から引ける金額」は同じではない

ここは、現場を知っている立場から特にお伝えしたいところです。

退去後、実際には貸主側が、

クロスを張り替える。

床を補修する。

クリーニングをする。

設備を交換する。

といった工事を行うことがあります。

しかし、

その工事費総額=借主負担額

ではありません。

例えば壁紙の場合。

一部に借主が付けた傷があったとしても、

貸主側が次の入居者のために部屋全体をきれいに張り替えることがあります。

だからといって、

部屋全体の工事費をそのまま全額敷金から差し引けるとは限りません。

見るのは、

  • 傷の原因
  • 借主の責任
  • 経過年数
  • 必要な補修範囲
  • 特約
  • 借主が負担すべき金額

です。

これは、原状回復工事そのものと、費用負担を分けて考えるということです。

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ハウスクリーニング代は敷金から引いていい?

Q.普通に掃除して退去したのにクリーニング代を引かれました。違法ですか?

それだけでは判断できません。

ここは契約書のクリーニング特約を確認します。

国土交通省ガイドラインQ&Aでは、クリーニング特約について、

  • 借主が負担する内容・範囲が示されているか
  • 通常損耗部分についても負担する趣旨が明確になっているか
  • 借主がその内容を理解して合意しているか
  • 費用が妥当か

などから有効性を判断する考え方が示されています。

つまり、

「契約書にクリーニングという文字がある=必ず有効」

でも、

「普通に掃除した=絶対払わなくてよい」

でもありません。

契約内容を確認します。

ハウスクリーニング代だけ差し引かれている場合は、特約の内容と借主負担になる条件をこちらで詳しく解説しています。

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敷金の精算はどう計算する?

基本はシンプルです。

例えば、

預けた敷金

から、

借主が本当に負担するべき費用

を差し引きます。

イメージとしては、

敷金
- 未払家賃
- 借主負担となる原状回復費用
- 有効な特約による負担
= 返還される金額

です。

大切なのは、

「修繕工事が行われた金額」ではなく「借主が負担する金額」

を差し引くということです。

そのため、

工事費そのものが10万円だったとしても、

それだけを見て、

「敷金から10万円全部引かれる」

とは判断できません。


敷金より退去費用のほうが高かったらどうなる?

Q.敷金を超えたら、それ以上は払わなくていいですか?

いいえ。

敷金は借主負担額の上限ではありません。

例えば、

借主が負担すべき正当な債務が敷金額を上回れば、

敷金を全額充てたうえで、足りない分を追加請求される

ことがあります。

反対に、

敷金10万円を預けていても、借主負担額が2万円なら、

基本的には残り8万円が返還対象になります。

ですから、

敷金の額と原状回復義務の額は別

と考えてください。

敷金を超える退去費用が後から請求された場合は、追加請求の内容をこちらの手順で確認してください。

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敷金0円の物件なら退去費用も0円?

違います。

「敷金0円」は、

退去時の借主負担が0円

という意味ではありません。

最初に預けている敷金がないだけです。

借主の故意・過失などによる原状回復費用や、契約で有効に定められた費用があれば、退去後に別途請求される可能性があります。

「敷金なしだから退去費用もなし」

とは考えないようにしましょう。


敷金精算書・明細ではどこを見る?

敷金の返還額を見るとき、

「返金額○円」だけを見ない

ことが大切です。

少なくとも次を確認してください。

① 最初に預けた敷金額

契約書の金額と一致しているか。

② 差し引かれている項目

何の費用なのか。

③ 原状回復の場所

クロス。

床。

設備。

水回り。

など、場所が特定できるか。

④ 借主負担になる理由

なぜその費用を借主が負担するのか。

⑤ 経過年数・負担割合

クロスやクッションフロアなど、経過年数を考慮するものについて確認します。

⑥ 特約

クリーニング等の費用が特約によるものなら、その内容を確認します。

敷金から差し引かれている修繕費の内訳が分からない場合は、見積書・精算書で確認する場所をこちらで詳しく解説しています。

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明細を出してもらえない場合は?

Q.「敷金は修繕費で全部なくなりました」とだけ言われました。明細を求めてもいいですか?

はい。

国土交通省のガイドラインQ&Aでは、

貸主には、敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、

借主は、

原状回復費用の内容・内訳の明細を請求し、説明を求めることができる

とされています。

ですから、

「敷金から差し引かれた費用について、項目と金額の分かる精算明細を確認させてください」

と伝えて構いません。

これは、

「払いたくないから文句を言う」

という話ではありません。

何を根拠に、いくら精算したのか確認する

ということです。


敷金が返ってこないときの5ステップ

退去後、敷金が返ってこない場合は、順番に確認します。

① 契約書の返還時期を見る

まず、

いつ返す契約になっているのか

を確認します。

② 精算書・明細を確認する

敷金が返ってこない理由が、

未払家賃なのか。

原状回復費用なのか。

クリーニング特約なのか。

確認します。

③ 借主負担になる根拠を確認する

例えば、

「クロス張替え5万円」

と書かれているだけなら、

なぜ借主負担なのか。

どの傷が原因なのか。

どこまで張り替えたのか。

経過年数はどうなっているのか。

を確認します。

④ 貸主・管理会社へ説明を求める

疑問点をまとめて、できれば記録が残る方法で確認します。

⑤ 解決しなければ外部へ相談する

当事者間で話し合っても納得できない場合には、

消費者ホットライン188

から最寄りの消費生活センターへ相談する方法があります。

それでも解決しない場合は、内容によって民事調停や少額訴訟などの手続を検討することもできます。

ここで少額訴訟について、少し注意が必要です。

少額訴訟は、

「退去費用が60万円以下なら使える制度」

という意味ではありません。

裁判所に対して、

「相手に60万円以下のお金を支払ってほしい」

と求める場合に利用できる手続です。

例えば、

敷金10万円を預けていたものの、8万円が原状回復費用として差し引かれた。
明細を確認した結果、「この8万円は借主負担ではないので返してほしい」と考え、8万円の返還を求める。

このような60万円以下の敷金返還請求であれば、少額訴訟を利用できる可能性があります。

一方、

「退去費用40万円を請求されたけれど、私は払いたくない」

というだけで、

「40万円だから少額訴訟を使える」

という話ではありません。

ポイントは、

請求書の金額が60万円以下かどうかではなく、自分が相手に60万円以下の金銭の支払いを求める訴えなのか

ということです。

少額訴訟は原則として1回の審理で解決を目指す制度ですが、相手方の申出や裁判所の判断によって通常訴訟へ移る場合もあります。

退去後に敷金が返ってこない場合に契約書・精算書・負担根拠・貸主への確認・外部相談の順で対応する5ステップ図

敷金が返ってこない=すぐ不当請求?

違います。

例えば、

  • 契約書で精算時期が定められている
  • 修繕内容の確認中
  • 借主負担額について双方で確認している

などの事情も考えられます。

重要なのは、

「返ってこない」という結果だけで判断しないこと

です。

いつ返還予定なのか。

なぜ返還されていないのか。

何を差し引いているのか。

まず事実を確認します。

その一方で、

理由も明細も示さず、敷金を返還しない状態をそのままにしてよい

ということでもありません。


NG行動|敷金精算で避けたいこと

「敷金はどうせ返ってこないお金」

違います。

借主に未払債務などがなければ、原則として返還されるお金です。

「退去費用に使ったと言われたから仕方ない」

違います。

何を、なぜ借主が負担するのか、明細を確認できます。

「通常損耗でも敷金があるから払う」

違います。

敷金を預けていることと、通常損耗を借主が負担することは別です。

「契約書に書いてある特約は全部有効」

違います。

借主に不利な特約は、内容の明確さ、合理性、借主の認識や合意などを含めて確認する必要があります。

「返ってこないから、いきなり裁判する」

おすすめしません。

まず契約書、精算明細、負担根拠を確認し、貸主側へ説明を求めるところから始めます。


職人目線|「直した金額」と「借主から取る金額」は分けて考える

原状回復の現場にいると、

工事として必要な内容

と、

借主が負担すべき内容

は必ずしも一致しないと感じます。

例えば退去後の部屋を見て、

「ここは次の入居者のために一面張り替えたほうが印象が良いな」

「床全体をきれいにしたほうが安心感が増すだろう」

という工事上の判断をすることがあります。

しかし、それは、

その工事費をすべて前の入居者から取る

という意味ではありません。

現場で考える順番は、

①何が傷んでいるか
↓
②なぜ傷んだか
↓
③誰の責任か
↓
④どこまで工事が必要か
↓
⑤経過年数はどうか
↓
⑥借主負担はいくらか

です。

私は、この

「工事費」と「借主負担額」を分けて考えること

が、敷金精算で特に重要だと思っています。

見積書に大きな金額が書かれていても、

そのまま、

「全部あなたの敷金から差し引きます」

となるとは限りません。

職人が実際の原状回復工事費と敷金から差し引く借主負担額を分けて判断する図

よくある質問|敷金の返還・退去費用

Q.敷金は退去したら必ず全額返りますか?

いいえ。

未払家賃や借主が負担すべき原状回復費用などがあれば、その分を差し引かれる可能性があります。

Q.何も壊していなければ全額返ってきますか?

原則として、借主が負担すべき債務がなければ全額返還が基本です。

ただし、有効なクリーニング特約などがある場合は契約内容を確認してください。

Q.退去立会いの日に返金されますか?

必ずしもその日ではありません。

まず契約書の返還時期を確認してください。

Q.法律では退去後30日以内に返さなければならないのですか?

一律に30日以内という規定ではありません。

民法は物件返還後の敷金返還について定めていますが、全国一律の「○日以内」という日数を規定しているものではありません。

Q.敷金から普通の経年劣化の修繕費を引いていい?

原則として違います。

通常損耗・経年変化は貸主負担が基本です。

ただし、有効な特約がある場合は別に確認します。

Q.敷金より退去費用が高くなったら追加請求されますか?

はい。あり得ます。

借主が負担すべき正当な費用が敷金を上回れば、差額が請求されることがあります。

Q.敷金0円物件なら退去費用も0円ですか?

違います。

預けている敷金がないだけで、借主に原状回復義務がなくなるわけではありません。

Q.修繕費の明細を出してくれません。請求できますか?

はい、請求できます。

敷金から差し引く原状回復費用について、借主は内容・内訳の説明を求めることができます。


まとめ|敷金は「何を差し引いたのか」を確認する

賃貸住宅の敷金は、

退去時の修繕費として全部使われることを前提としたお金ではありません。

基本は、

敷金
- 借主が負担する債務
= 返還される金額

です。

確認するのは、

  1. いくら敷金を預けたか
  2. 契約書の返還時期
  3. 何が差し引かれているか
  4. なぜ借主負担なのか
  5. 原状回復の範囲
  6. 経過年数
  7. 特約
  8. 最終的な精算額

です。

特に大切なのは、

貸主側が実際に行った工事費

と、

借主が負担すべき金額

を分けて考えること。

普通に使用して発生した通常損耗や経年変化まで、敷金があるという理由だけで借主負担になるわけではありません。

また、

「敷金は返ってこないもの」

と最初から諦める必要もありません。

返還額に疑問があれば、

契約書
↓
精算書
↓
負担理由
↓
補修範囲
↓
特約

の順番で確認してください。

それでも説明に納得できない場合は、

敷金から差し引かれた退去費用そのものが高いと感じる場合は、請求内容を確認する順番をこちらで解説しています。

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敷金が返らないだけでなく、さらに追加の退去費用を請求された方はこちらも確認してください。

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参考資料

この記事では、主に以下の公的資料を参考にしています。

実際の敷金精算は、賃貸借契約、特約、未払債務、損傷原因、経過年数、補修範囲などによって個別に判断する必要があります。