賃貸住宅の壁紙を見て、
「家具をぶつけて破ってしまった」
「テープを剥がしたらクロスまで一緒に剥がれた」
「こんな小さな破れでも退去費用を請求される?」
と不安になっていませんか。
先に結論をお伝えすると、壁紙が破れているだけで、張替え費用をすべて借主が負担すると決まるわけではありません。
まず確認するのは、
- なぜ破れたのか
- 壁紙だけの損傷なのか
- 下地まで傷んでいるのか
- どこまで張り替える必要があるのか
- クロスが何年使われているのか
- 見積書では何を請求されているのか
です。
借主が家具をぶつけるなど、不注意で壁紙を破ったのであれば原状回復費用を負担する可能性があります。
一方、日焼けや自然な経年変化など、借主に原因がないものまで同じ扱いにはなりません。
そして、借主に原因があったとしても、
「破った=部屋全部の新品クロス代を100%払う」
という意味ではありません。
この記事では、内装・修繕・原状回復の現場に30年以上携わってきた経験も踏まえて、
壁紙を破ってしまったとき、何を見れば借主負担と退去費用を判断できるのか
を順番に解説します。
「そもそも原状回復って、どこまで借主が直すもの?」という方は、通常損耗・経年変化との違いからこちらで確認できます。
賃貸の原状回復とは?通常損耗・経年変化と退去費用の基本ルールを解説賃貸の原状回復とは?入居時の新品状態に戻すことではありません。民法621条と国交省ガイドラインをもとに、通常損耗・経年変化・故意過失の違い、借主負担、6年ルール、特約、退去費用の確認方法を現場目線で解説します。
結論|壁紙の破れは「原因・範囲・年数」で判断する

まず代表的なケースを整理します。
| 壁紙の状態 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 家具をぶつけて破った | 借主負担になり得る |
| テープを剥がしてクロスも破った | 借主負担になり得る |
| ペットによる引っかき傷 | 借主負担になり得る |
| 落書き | 借主負担になり得る |
| 日照による変色 | 原則として貸主側 |
| 冷蔵庫などの電気ヤケ | 通常損耗として貸主側が基本 |
| 経年による自然な変色・劣化 | 原則として貸主側 |
| 小さな画鋲・ピン穴 | 下地交換が不要な程度なら通常損耗と考えられる例あり |
つまり、
「壁紙に傷がある=借主負担」ではありません。
そして借主負担となる破れでも、
補修範囲と経過年数
をさらに確認します。
家具をぶつけて壁紙を破ったら借主負担?
はい。借主負担になる可能性があります。
例えば、
- 家具の移動中に角をぶつけた
- 大きな荷物を運んで破った
- 硬い物を当ててクロスを傷つけた
などです。
通常の生活で自然に古くなったものではなく、借主の不注意による損傷と判断されれば、原状回復義務の対象になり得ます。
ただし、
借主に原因があること
と、
張替え工事費を全額負担すること
は別です。
ここから、
- 損傷範囲
- 下地
- 経過年数
を確認します。
テープを剥がして壁紙まで破れた場合は?
借主負担になる可能性があります。
強力な両面テープ。
粘着フック。
ステッカー。
養生テープやマスキングテープではない粘着力の強いテープ。
(繊細な壁紙の場合は養生テープでもリスクはあります)
などをクロスへ直接貼ると、剥がすときに表面まで一緒に持っていかれることがあります。
特にビニールクロスは、
「表面だけ少し剥がれたように見える」
状態でも、仕上げとして部分的に目立つことがあります。
賃貸住宅では、
貼る前に契約や使用上の注意を確認すること
が大切です。
画鋲やピン穴も壁紙の修理費を請求される?
小さな画鋲・ピン穴なら、必ず借主負担になるわけではありません。
国土交通省ガイドラインでは、ポスターやカレンダーを掲示するための画鋲・ピン穴について、
下地ボードの張替えが不要な程度
であれば、通常損耗として考えられる例に挙げています。
一方、
太い釘。
大きなネジ。
重量物を取り付けるための穴。
などで、下地ボードの張替えまで必要になる程度なら考え方が変わります。
画鋲・ピン・釘・ネジでは判断が違います。下地への影響まで含めた違いはこちらで詳しく解説しています。
画鋲・ピン穴は請求される?OKな範囲と原状回復の判断基準【退去前に知るべき注意点】賃貸の画鋲やピン穴はどこまでOK?原状回復の基準を国交省ガイドラインに基づいて解説。請求されるケース・されないケース、退去前の確認ポイントや職人目線の注意点までわかりやすく説明します。
壁紙だけでなく下地まで壊れていたら?
ここは現場でとても重要です。
一見、
「壁紙が少し破れているだけ」
に見えても、強く物をぶつけた場合は、その下にある石膏ボードまで凹んだり割れたりしていることがあります。
この場合、
クロスの張替え
だけでなく、
下地の補修
が必要になる可能性があります。
例えば、
表面クロスの破れだけ。
クロスの下まで凹んでいる。
石膏ボードに穴が開いている。
では、修理内容が違います。
そして注意したいのは、
クロスの6年ルールだけを見て、下地補修まで同じ計算になると決めつけないこと
です。
まず、
「どこまで傷んでいるのか」
を確認してください。
小さな破れでも壁一面を張り替えるの?
場合によります。
国土交通省ガイドラインでは、壁クロスの借主負担範囲について、
㎡単位が望ましい
としています。

ただし、施工上やむを得ない場合には、
損傷箇所を含む一面分まで
の張替え費用を借主負担とすることは妥当と考えられるとしています。
ここが重要です。
例えば壁の一部に破れがある場合、
「必ず破れた10cmだけ直せる」
とは限りません。
壁紙は、
- 同じ品番が廃番
- 同じ品番でも古い部分と新品で色が違う
- 継ぎ目が不自然になる
- 柄合わせができない
などの理由で、一面施工が必要になることがあります。
一方、
一か所破れたから何の理由もなく部屋4面全部を借主負担
という考え方でもありません。
施工範囲と借主負担範囲を分けて確認します。
部屋全部を張り替えたら全部借主負担?
いいえ。
ここはかなり重要です。
例えば、一部分のクロスを借主が破ったとします。
貸主側が、
「新しいクロスと古いクロスの色が合わないので、部屋全体を張り替えよう」
と判断することはあり得ます。
しかし、
貸主が実際に施工する範囲
と、
借主が費用を負担する範囲
は同じとは限りません。
国土交通省Q&Aでも、クロスは最低限可能な施工単位を基本として、やむを得ない場合に損傷箇所を含む一面分までという考え方が示されています。
ですから、部屋全体の張替え費用を提示された場合は、
「今回の破れについて、借主負担となる範囲はどこまででしょうか?」
と確認して構いません。
壁紙の6年ルールとは?
クロスの原状回復では、経過年数も重要です。
国土交通省ガイドラインでは、壁紙(クロス)について、
6年で残存価値1円
となるように借主負担割合を考えます。
例えば新品のクロスを基準に単純化すると、
- 1年:約83%
- 2年:約67%
- 3年:約50%
- 4年:約33%
- 5年:約17%
- 6年:残存価値1円
というイメージです。
ただし、
「自分が3年住んだから必ず50%」
とは限りません。
入居したとき、すでに何年か使用されていたクロスかもしれないからです。
確認したいのは、
居住年数だけでなく、クロスそのものの経過年数
です。
「6年住めば壁紙代は0円?」という疑問については、残存価値1円と実際の請求額の違いまでこちらで詳しく解説しています。
賃貸の原状回復「6年ルール」とは?6年以上なら退去費用は0円?対象と計算方法を解説賃貸の原状回復「6年ルール」とは?壁紙・クッションフロアなど6年で残存価値1円となる対象、負担割合の計算例、6年以上住んでも退去費用が必ず0円にならない理由を国交省ガイドラインと職人目線で解説します。
6年以上なら壁紙を破っても0円?
違います。
ここは今回、必ず覚えておいてほしいところです。

クロスは6年で残存価値1円となるよう負担割合を考えます。
しかし、
残存価値1円=退去時の請求額が必ず1円や0円
という意味ではありません。
例えば、6年以上使われていても、まだ十分使用できるクロスを借主の故意・過失によって使用できない状態にした場合には、原状回復に必要な工事費などが問題になることがあります。
また、
下地まで壊している。
別の部材まで損傷している。
などであれば、クロスの残存価値だけでは判断できません。
したがって、
「6年以上だから何をしても0円」
ではありません。
壁紙の張替え費用はいくら?
壁紙だけを見て「一面○万円が相場」と決めつけるのはおすすめしません。
工事費は、
- 壁の大きさ
- 使用するクロス
- 下地補修
- 既存クロスの剥がし
- 廃材処分
- 施工条件
- 地域
- 工事規模
などによって変わります。
特に原状回復では、
実際の工事総額
と、
借主が負担する金額
も同じとは限りません。
例えば張替え工事そのものが5万円だったとしても、
経過年数や借主負担範囲を確認した結果、借主負担額が別になることがあります。
ですから、
「ネットでは㎡○円だった」
だけで高い・安いを判断するより、
今回の見積書がなぜその金額になっているのか
を見るほうが重要です。
退去費用の金額そのものが高いのか知りたい方は、相場だけで判断できない理由をこちらで解説しています。
原状回復費用の相場はいくら?退去費用の内訳と高い・安いの判断基準【賃貸】退去費用はいくらなら高い?原状回復費用は総額だけでは判断できません。クロス・床・ハウスクリーニングなどの内訳や、借主負担になるケース、経過年数の考え方を現場経験のある職人が分かりやすく解説します。
壁紙を破ったら退去前に何をする?
おすすめする順番は次のとおりです。
① 写真を残す
まず全体と破れた場所を撮影します。
おすすめは、
部屋全体
↓
傷の位置
↓
破れのアップ
の3段階です。
② 原因を整理する
家具をぶつけた。
テープを剥がした。
入居時からあった。
自然に剥がれた。
など、分かる範囲で整理します。
③ 入居時の写真を確認する
もともとあった傷なら、入居時写真やチェックシートが重要な資料になります。
④ 契約書を確認する
壁紙やDIY、退去時費用について特約がないか確認します。
⑤ 退去時の見積書を確認する
見るのは、
- 修理場所
- 張替え範囲
- 数量
- 単価
- 経過年数
- 借主負担割合
です。
実際に壁紙張替えの見積書が届いている方は、総額だけでなく「場所・原因・範囲・年数」を確認してください。
退去費用の見積書はどこを見る?原状回復費用の内訳と確認ポイント退去後に届いた原状回復費用の見積書は、どこを確認すればいい?クロス・床・ハウスクリーニングなどの内訳や、借主負担になる範囲、経過年数、特約、見積金額の確認ポイントを現場経験のある職人が分かりやすく解説します。
NG行動|壁紙を破ってしまったときに避けたいこと
「6年以上住んだから何もしなくていい」
違います。
6年ルールは、破損の報告や確認が不要になる制度ではありません。
「破れたところだけ自分で接着剤を塗れば大丈夫」
必ずしもそうではありません。
接着剤が表面にはみ出す。
柄がずれる。
不自然な仕上がりになる。
周囲だけ艶が変わる。
など、補修跡のほうが目立つことがあります。
「家具で隠しておけば分からない」
おすすめしません。
隠すより、状態を写真に残して原因を整理したほうが、その後の確認がしやすくなります。
「一面張替えと言われたから全部払う」
違います。
工事範囲と借主負担範囲は分けて確認します。
「高いから絶対に不当請求」
違います。
一面施工が必要な理由や下地補修などによって、実際に費用が大きくなる場合があります。
まず内訳を確認してみましょう。
DIYで壁紙を直さないほうがいい理由
退去前になると、
「少し直しておけば請求されないかもしれない」
と考える方もいると思います。
しかし、賃貸住宅の壁紙は、自己判断で補修しないほうがよいケースがあります。
職人が見ると、
- 光の反射
- クロスの艶
- 柄のずれ
- 補修材の色
- 接着剤跡
- 表面の凹凸
などから、補修部分が分かることがあります。
特に数年間使ったクロスへ新品の補修材を入れると、
直した場所だけ新しく見える
こともあります。
DIYそのものを否定するわけではありません。
しかし賃貸の退去費用を減らす目的で行う補修は、失敗した場合にかえって施工範囲を広げる可能性があります。
まず契約内容を確認し、不安なら管理会社や貸主へ相談するほうが安全です。
職人目線|壁紙の破れは「表面」だけ見ない

現場で壁紙の破れを見るとき、私は最初に、
「何cm破れているか」
だけを見ません。
まず、
①原因
家具をぶつけたのか。
テープなのか。
自然に剥がれたのか。
②下地
クロスだけなのか。
石膏ボードまで凹んでいるのか。
③破れ方
表面だけ。
めくれ。
裂け。
穴。
によって補修方法が変わります。
④クロスの状態
新しいのか。
かなり古いのか。
日焼けしているのか。
⑤補修範囲
部分的に直せるのか。
一面施工が必要なのか。
を見ます。
例えば同じ5cmの破れでも、
表面だけ少しめくれた5cm
と、
家具の角が当たり下地まで潰れた5cm
では、工事内容はまったく違います。
だからこそ、
「傷の大きさ」だけで退去費用を判断しない
ことが大切です。
タバコ・ペット・カビは「破れ」と少し判断が違う
壁紙の原状回復には、破れ以外の問題もあります。
タバコ
ヤニや臭いが居室全体に付着している場合は、一部分の破れとは施工範囲の考え方が異なります。

ペット
引っかき傷だけでなく、臭いや尿汚れなどが壁・床へ広がることがあります。

カビ
カビも、
「カビがある=借主負担」
ではありません。
建物側の原因なのか、結露や換気、手入れ、放置によって広がったのかを確認します。

よくある質問|賃貸の壁紙の破れ
Q.壁紙を少し破っただけでも請求されますか?
借主の不注意が原因なら、請求対象になる可能性があります。
ただし、破れの程度・補修範囲・経過年数を確認して負担額を判断します。
Q.小さい破れでも壁一面の張替えになりますか?
場合によります。
㎡単位が望ましいとされていますが、施工上やむを得ない場合は損傷箇所を含む一面分までが借主負担になることがあります。
Q.一か所破っただけなのに部屋全部の張替え費用を払うのですか?
必ずしもそうではありません。
実際の工事範囲と借主負担範囲を分けて確認してください。
Q.6年以上住んでいるので壁紙代は0円ですよね?
違います。
クロスの残存価値は非常に小さくなりますが、実際の請求額が必ず0円になる制度ではありません。
Q.自分で壁紙を貼れば請求されませんか?
そうとは限りません。
補修の仕上がりや契約内容によっては、改めて補修が必要になることがあります。
Q.下地まで穴が開いています。6年ルールで安くなりますか?
クロスの6年ルールだけでは判断できません。
壁紙と下地は修理内容が違うため、どこまで損傷しているか確認する必要があります。
退去立会いで壁紙の破れを指摘されたら
立会いで、
「この壁紙は張替えですね」
と言われても、
それだけで、
「では全部払います」
と答える必要はありません。
確認するのは、
- どこの破れか
- 原因は何か
- どこまで張り替えるのか
- クロスは何年使われているのか
- 費用負担について何に同意するのか
です。
立会いで確認書へのサインを求められた場合は、状態確認なのか費用負担への同意なのかを分けて確認してください。
賃貸の退去立会いでサインする前に確認すること|費用負担で後悔しない7つのポイント賃貸住宅の退去立会いでは、管理会社や貸主の担当者と一緒に部屋の傷や汚れを確認します。そのとき、「こちらにサインをお願いし…
まとめ|壁紙の破れは「破れた=全額負担」ではない
賃貸住宅の壁紙を破ってしまっても、
破れたという事実だけでは、退去費用は決まりません。
確認する順番は、
- なぜ破れたのか
- 借主に原因があるのか
- 壁紙だけか下地まで傷んでいるか
- どこまで補修・張替えが必要か
- クロスの経過年数
- 見積書の数量・単価・借主負担割合
です。
家具をぶつけるなど、借主の不注意による破れなら原状回復費用を負担する可能性があります。
しかし、
借主負担=新品への張替え費用を100%負担
ではありません。
クロスには経過年数の考え方があり、6年で残存価値1円となるよう負担割合を考えます。
また張替え範囲も、
実際に貸主が施工する範囲
と、
借主が費用を負担する範囲
を分けて確認することが大切です。
そして、退去前に破れを見つけても焦ってDIYしないでください。
まず、
写真を残す
→ 原因を整理する
→ 入居時記録を確認する
→ 契約・見積書を確認する
という順番で進めましょう。
すでに高い張替え費用を提示されている場合は、金額だけで判断せず、原因・範囲・年数・内訳を確認してください。
退去費用が高すぎると感じたら?請求内容の確認方法と納得できないときの対処法【賃貸】退去費用が高すぎると感じたら何を確認する?借主負担の原因、補修範囲、6年ルールなどの経過年数、見積書の内訳・単価・特約を確認する順番と、納得できない場合の対処法を現場目線で解説します。
壁紙以外にも床・水回り・設備など気になる場所がある方は、退去時に請求されやすい項目をこちらの一覧から確認できます。
賃貸の原状回復で請求されやすい項目一覧|借主負担になるケースと判断基準賃貸の原状回復で請求されやすい項目を一覧で解説。壁紙・床・カビ・水回り・建具・設備・ペット・鍵・ハウスクリーニングなど、借主負担になるケースと判断基準、6年ルールや見積書の確認方法を現場目線で紹介します。
参考資料
この記事では、主に以下の公的資料を参考にしています。
- 民法第621条「賃借人の原状回復義務」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン Q&A」
国土交通省のガイドラインは一般的な判断基準を示したもので、実際の費用負担は契約内容、損傷原因、経過年数、補修範囲などによって個別に判断する必要があります。








コメント