引っ越しのためにベッドやタンスを動かしたら、
「床が家具の脚の形にへこんでいる」
「冷蔵庫をどかしたら跡が残っている」
「こんな跡でも退去費用を請求されるの?」
と心配になることがあります。
重い家具を何年も置いていれば、床へ跡が残ることはあります。
そこで先に結論をお伝えします。
家具を普通に設置していたことで生じた床のへこみや設置跡は、原則として借主が原状回復費用を負担するものとは考えません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、
家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡
は、通常の住まい方・使い方で発生すると考えられるものとして整理されています。
ただし、
家具が原因ならすべて通常損耗
という意味ではありません。
家具を引きずって傷を付けた。
キャスター付きの椅子で床を傷めた。
冷蔵庫の下にサビが出ていることに気付きながら放置した。
水分が入り床を傷めた。
このような場合は考え方が変わります。
この記事では、
- ベッドやタンスを置いてできたへこみ
- 冷蔵庫の設置跡
- 家具を引きずった傷との違い
- フローリング・クッションフロア・カーペットの違い
- 退去時に請求された場合の確認方法
- 自分で直してよいのか
を、内装・修繕・原状回復の現場に30年以上携わってきた経験も踏まえて解説します。
結論|普通に家具を置いてできたへこみは通常損耗として考える
Q.ベッドやタンスを置いてできた床のへこみは借主負担ですか?
原則として、普通に設置したことでできたへこみ・設置跡まで借主負担とは考えません。
生活するためには、
ベッド。
タンス。
食器棚。
テーブル。
ソファ。
冷蔵庫。
などの家具・家電を置きます。
重量のある家具を長期間置けば、その荷重によって床に跡が付くことがあります。
国土交通省の原状回復ガイドラインでも、家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡は、通常の使用による損耗として整理されています。
つまり、
「自分の家具を置いたから自分が払う」
とは限りません。
賃貸住宅の原状回復は、生活して付いたすべての跡を借主が新品へ戻す制度ではないからです。
民法621条でも、通常の使用・収益によって生じた損耗や経年変化は、賃借人の原状回復義務から除かれています。
通常損耗・経年変化と借主負担の基本から確認したい方は、「賃貸の原状回復とは?通常損耗・経年変化と退去費用の基本ルールを解説」も参考にしてください。
賃貸の原状回復とは?通常損耗・経年変化と退去費用の基本ルールを解説賃貸の原状回復とは?入居時の新品状態に戻すことではありません。民法621条と国交省ガイドラインをもとに、通常損耗・経年変化・故意過失の違い、借主負担、6年ルール、特約、退去費用の確認方法を現場目線で解説します。
「家具のへこみ」と「家具で付けた傷」は分けて考える
ここがこの記事で一番大切なところです。
同じ家具が原因でも、
置いていたことで自然にできた跡
と、
家具を動かしたり使ったりして付けた傷
は同じではありません。
例えば、
| 状態 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| ベッドの脚によるへこみ | 通常損耗として考える |
| タンスを置いていた設置跡 | 通常損耗として考える |
| ソファの脚跡 | 通常損耗として考える |
| 家具を引きずった傷 | 借主負担になる可能性がある |
| 引っ越し時の引っかき傷 | 借主負担になる可能性がある |
| キャスター付き椅子による傷 | 借主負担になる場合が多い |
| 冷蔵庫下のサビを放置して床を傷めた | 借主負担になる可能性がある |

つまり、
家具が置いてあった場所だから通常損耗
と判断するのでも、
家具が原因だから借主負担
と判断するのでもありません。
何をした結果、その跡ができたのか
を確認する必要があります。
ベッド・タンス・ソファの脚跡は?
ベッド。
タンス。
食器棚。
ソファ。
テーブル。
などは、床へ荷重が集中することがあります。
家具を移動したときに、
丸い跡。
四角い跡。
家具の脚と同じ位置に並んだへこみ。
が見つかることがあります。
普通に家具を設置して生活していた結果として付いたものであれば、
家具の設置による通常損耗として考えるのが基本です。
「床がへこんでいる」という見た目だけで、
借主の使い方が悪かったとは判断できません。
一方、
家具の脚が折れて床へ食い込んだ。
家具を何度も引きずって表面を削った。
倒した家具で床材を割った。
という場合は別です。
ここでも、
へこんでいるかどうかより、どうしてその状態になったのか
を見ることが重要です。
冷蔵庫の跡も通常損耗?
Q.冷蔵庫を置いていた場所の床がへこんでいます。借主負担ですか?
重さによる通常の設置跡だけなら、家具と同じように通常損耗として考えます。
ただし、冷蔵庫の場合は別の注意点があります。
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、
冷蔵庫下のサビ跡を放置し、床へ汚損などの損害を与えた場合
は、借主側の負担となる例に挙げられています。
つまり、
冷蔵庫の重さによるへこみ。
冷蔵庫を置いたことで残った通常の設置跡。
と、
サビや水分などを放置して生じた損傷。
は分けて考えます。
Q.冷蔵庫の下が変色していたら全部借主負担ですか?
これだけでは判断できません。
変色の原因を確認する必要があります。
サビなのか。
水分なのか。
床材そのものの経年変化なのか。
原因によって判断が変わります。
見た目だけで決めつけないようにしてください。
家具を引きずった傷は通常損耗ではないことがある
Q.タンスを動かしたときに床へ線状の傷が付きました。家具跡として扱われますか?
通常の設置跡とは分けて考えます。
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、引っ越し作業などで生じた引っかき傷は、借主側の負担となる場合が多い例に挙げられています。
例えば、
家具を持ち上げずに引きずった。
大型家電を床の上で滑らせた。
家具の角を床へ落とした。
という場合です。
これは、
家具を置いていたため自然にできたへこみ
とは原因が違います。
「家具を置いたへこみではなく、引きずり傷や深い傷がある場合は、『賃貸のフローリングの傷は借主負担?』で補修範囲や全面張替えの考え方を確認してください。」

キャスター付き椅子の傷は家具跡と同じ?
いいえ。
ここも注意したいところです。
国土交通省の原状回復ガイドラインでは、キャスター付き椅子などによるフローリングの傷・へこみは、
借主負担となる例
として挙げられています。
同じ家具でも、
ベッドの脚が長期間床を押してできたへこみ。
キャスターを繰り返し動かして床表面を傷めた状態。
では原因が違います。
キャスター付き椅子を使用する場合は、床保護マットなどを使うことで傷を防ぎやすくなります。
ただし、
保護マットを使っていなかったという理由だけで、自動的に借主負担が決まるわけではありません。
実際の損傷と原因を確認して判断します。
床材によって「へこみ」の見え方も補修方法も違う

床といっても材料は一種類ではありません。
例えば、
- フローリング
- クッションフロア(CF)
- カーペット
- 畳
- 塩ビ系床材
などがあります。
見た目が木目だからといって、必ずフローリングとは限りません。
特にクッションフロアは柔らかいため、家具の脚の形が残ることがあります。
ただし、
家具の通常設置による跡なら、床材が柔らかいから借主負担になるということではありません。
まず見るのは、
何の床材なのか。
どのような跡なのか。
なぜできたのか。
です。
クッションフロアの傷・へこみについては、「クッションフロアの傷・へこみ・変色は借主負担?賃貸の退去費用と張替え範囲の判断基準」で詳しく解説しています。
クッションフロアの傷・へこみ・変色は借主負担?賃貸の退去費用と張替え範囲の判断基準クッションフロアの傷・へこみ・変色は借主負担?家具跡や引きずり傷、黒ずみ・焦げなどケース別の判断、CFの6年ルール、全面張替えを請求された場合の確認ポイントを国土交通省ガイドラインと現場目線で解説します。
「6年以上住んだから家具跡は0円」と考える必要はない
家具を普通に置いてできたへこみ・設置跡が通常損耗なのであれば、
そもそも借主負担の原状回復費として計算するものではない
というところから考えます。
そのため、
「6年以上住んだから家具跡の請求は0円」
というより、
まず、その跡自体が借主負担になるものなのか
を判断することが先です。
一方、家具を引きずった傷など、借主負担になる損傷がある場合は、床材によって経過年数の考え方が違います。
国土交通省のガイドラインでは、
カーペット・クッションフロア
→ 6年で残存価値1円となるよう負担割合を考える
フローリングの部分補修
→ 原則として経過年数を考慮しない
という違いがあります。
つまり、
床は何でも6年で同じ計算になるわけではありません。
6年ルールについて詳しく知りたい方は、「賃貸の原状回復『6年ルール』とは?6年以上なら退去費用は0円?対象と計算方法を解説」を確認してください。
賃貸の原状回復「6年ルール」とは?6年以上なら退去費用は0円?対象と計算方法を解説賃貸の原状回復「6年ルール」とは?壁紙・クッションフロアなど6年で残存価値1円となる対象、負担割合の計算例、6年以上住んでも退去費用が必ず0円にならない理由を国交省ガイドラインと職人目線で解説します。
退去時に家具跡を請求されたら何を確認する?
見積書に、
「床補修」
「フローリング補修」
「CF張替え」
などがあり、その理由が家具跡だと言われた場合は、すぐに金額だけを見るのではなく内容を確認してください。
① どの跡についての請求なのか
ベッド。
タンス。
冷蔵庫。
ソファ。
どの家具の跡なのかを確認します。
② 何が問題とされているのか
単なるへこみなのか。
引っかき傷なのか。
変色なのか。
サビなのか。
内容を確認します。
③ なぜ借主負担と判断されたのか
普通に家具を置いてできた設置跡なら、
「通常損耗ではなく借主負担と判断した理由を教えてください」
と確認して構いません。
④ 床材は何か
フローリングなのか。
クッションフロアなのか。
カーペットなのか。
床材によって補修方法や経過年数の扱いが違います。
⑤ どこまで直すのか
部分補修なのか。
一部張替えなのか。
居室全体なのか。
工事範囲を確認します。
⑥ 契約書・特約はどうなっているのか
通常損耗に関する特約がある場合は、その内容も確認します。
ただし、
「契約書に書いてある=どんな内容でも必ず有効」
というわけではありません。
特約については、「賃貸の原状回復特約はどこまで有効?『契約書に書いてある=払う』ではない判断基準」で詳しく解説しています。
賃貸の原状回復特約はどこまで有効?「契約書に書いてある=払う」ではない判断基準賃貸の原状回復特約はどこまで有効?「契約書に書いてあるから全部借主負担」とは限りません。通常損耗、クリーニング特約、6年ルール、サイン済みの場合など、特約の確認ポイントを国交省ガイドラインと現場目線で解説します。
自分で家具跡を直したほうがいい?
Q.退去前に床のへこみを自分で直しておいたほうがいいですか?
自己判断で補修する必要はありません。
特に、
熱を加える。
水分を加える。
床材を削る。
補修材を塗る。
床材を剥がす。
といった作業は注意してください。
インターネット上には床のへこみを戻す方法が紹介されていることがありますが、
床材の種類。
表面仕上げ。
コーティング。
下地。
によって結果は変わります。
賃貸住宅では、もともと借主負担ではなかった家具跡を自分で補修しようとして、
別の傷や変色を作ってしまう
ほうが問題になることがあります。
まずはそのままの状態を写真に残し、必要があれば管理会社へ確認してください。
職人目線|へこみの深さだけではなく「跡の付き方」を見る
現場で床を見るとき、
私は単純に、
「へこんでいるから誰かが悪い」
とは考えません。
見るのは、
どこにあるのか。
どんな形なのか。
同じ形の跡が規則的に並んでいるか。
線状の傷が伸びていないか。
表面が削れていないか。
床材が破れていないか。
変色やサビを伴っていないか。
というところです。
例えば、ベッドの四隅と同じ位置へ脚の形の跡が残っているなら、
家具を置いていた荷重による跡
と考える手掛かりになります。
一方、
家具の脚跡から長い引っかき傷が続いている。
表面材がめくれている。
キャスターの動く範囲だけ細かい傷が集中している。
という場合は、
単なる設置跡とは別の原因を考えます。
ただし、
写真や見た目だけですべて断定できるわけではありません。
床材の種類や使い方も含めて確認することが大切です。
現場では、
「どれくらいへこんでいるか」より、「どうしてこの跡ができたのか」
を見ることが、負担を判断するうえで重要だと思っています。

家具跡を理由に予防しすぎる必要はない
床をきれいに使うために、
家具脚用のフェルト。
保護マット。
家具用の敷板。
などを使うことは、傷の予防として役立つ場合があります。
ただし、
普通に家具を置けば跡が付く可能性まで、すべて借主が防がなければならない
という意味ではありません。
生活するために必要な家具を普通に設置して生じた跡まで、
「予防しなかった借主が悪い」
と一律に考えるものではありません。
一方で、
床を傷付けることが分かっている使い方。
家具を頻繁に引きずる。
キャスターを同じ場所で繰り返し使用する。
水分やサビに気付いても放置する。
といった場合は考え方が変わります。
普通に使って付いた跡
と、
防げた損傷を広げた場合
を分けることが大切です。
入居時・家具を置く前の写真も残しておく
家具を置くと、その下の床は数年間見えなくなることがあります。
ベッド。
タンス。
冷蔵庫。
大型収納。
などを置く前に、
床の状態を撮影しておくと後から確認しやすくなります。
特に、
すでにへこみがある。
傷がある。
変色している。
補修跡がある。
場合は写真を残しておきましょう。
家具を置いたあとでは、
その傷が入居前からあったのか
確認しにくくなります。
入居時の写真の残し方については、「賃貸の入居時に写真を撮るべき場所は?退去費用トラブルを防ぐ撮影ポイント」で詳しく解説しています。
賃貸の入居時に写真を撮るべき場所は?退去費用トラブルを防ぐ撮影ポイント賃貸の入居時に写真を撮るべき場所は?壁・床・天井・水回り・設備など、退去費用トラブルを防ぐ撮影ポイントを解説。全景・位置・アップの撮り方、管理会社への伝え方、写真の保存方法まで現場目線で紹介します。
NG行動|家具跡を見つけたときに避けたいこと
家具を置いた自分が全部払うと思い込む
違います。
普通に家具を設置してできたへこみ・設置跡は通常損耗として考えます。
「家具跡だから全部通常損耗」と決めつける
違います。
引きずり傷、キャスター傷、放置したサビや水分による損傷などは別に判断します。
退去前に自己流で床を直す
おすすめしません。
補修方法を間違えると、かえって損傷を増やすことがあります。
木目に見えるからこれはフローリングだ
違います。
クッションフロアなど、見た目が木目調の別の床材もあります。
「6年以上住んだから何でも0円」と考える
違います。
床材や補修内容によって経過年数の扱いは異なります。
Q&A|賃貸の家具跡・床のへこみ
Q.ベッドの脚の跡は請求されますか?
普通に設置してできた跡なら、原則として通常損耗として考えます。
家具を引きずった傷などが一緒にある場合は別に確認します。
Q.タンスを長年置いて床がへこんでいます。退去前に直す必要がありますか?
通常の家具設置によるへこみであれば、自分で補修する必要はありません。
まずは状態を写真に残してください。
Q.冷蔵庫の下のへこみも通常損耗ですか?
重さによる通常の設置跡なら同じ考え方です。
ただし、サビや水分を放置して床を傷めた場合は別です。
Q.カーペットに家具の脚跡がくっきり残っています。払いますか?
普通に家具を置いたことでできた設置跡であれば、原則として通常損耗として考えます。
Q.家具を動かしたときに傷を付けました。家具跡と同じですか?
違います。
設置によるへこみと、移動時の引っかき傷は分けて判断します。

Q.管理会社から床の張替え費用を請求されました。払わないといけませんか?
請求されたというだけでは判断できません。
どの損傷についての請求なのか、なぜ借主負担なのか、床材、補修範囲、契約内容を確認してください。
まとめ|家具跡は「跡があるか」ではなく「どうできたか」で判断する
賃貸住宅で家具を動かしたとき、
床にへこみや設置跡が残っていても、
家具を普通に置いて生活したことでできた跡まで、原則として借主負担になるわけではありません。
国土交通省の原状回復ガイドラインでも、
家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡は、通常の住まい方・使い方で発生する損耗として整理されています。
一方で、
家具を引きずった傷。
引っ越し時の引っかき傷。
キャスター付き椅子による傷。
冷蔵庫下のサビを放置して生じた損傷。
などは別です。
大切なのは、
「家具の跡がある」
という結果だけではなく、
「その跡がどうしてできたのか」
を確認することです。
退去時に請求された場合も、
原因。
床材。
補修範囲。
経過年数。
契約内容。
を一つずつ確認していきましょう。
そして、通常損耗と思われる家具跡を見つけたからといって、
慌てて自己流で直す必要はありません。
まずは写真を残して、何の跡なのかを確認することから始めてください。
あわせて確認しておきたい記事
家具跡を理由に床の補修費や張替え費用を請求され、見積書のどこを確認すればよいか分からない方はこちらです。

退去前に床だけでなく、壁・設備・水回りなどもまとめて確認したい方はこちらも参考にしてください。

参考資料
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)のQ&A」
- e-Gov法令検索「民法」第621条




