引っ越しで壁や床を傷つけたら誰が払う?賃貸の退去費用と引越業者が付けた傷の対処法

引っ越し後に賃貸住宅の壁と床に付いた傷を確認する女性のイラスト

引っ越しでベッドやタンス、冷蔵庫などを運び出している途中に、

「家具を壁にぶつけてクロスを破いてしまった」

「床に家具を引きずった傷が付いた」

「引越業者が付けた傷だと思うけれど、自分が払うの?」

と不安になることがあります。

特に退去当日は時間に追われているため、

「あとで考えよう」

と、そのままにしてしまうこともあるでしょう。

先に結論をお伝えします。

引っ越し作業によって壁や床に付けた傷は、通常損耗ではなく、借主側の負担になることが多いです。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、

引越作業等で生じた引っかきキズ

は、借主側の負担となる場合が多い例として挙げられています。

ただし、

引越業者が付けた傷まで、何も確認せず借主がすべて自分で負担しなければならない

という意味ではありません。

ここでは、

大家さん・管理会社との原状回復の問題

と、

引越事業者との補償の問題

を分けて考える必要があります。

また、借主負担になる傷でも、

壁や床をすべて新品にする費用を当然に全額負担するとは限りません。

この記事では、

  • 自分で付けた引っ越し傷は誰が払うのか
  • 引越業者が付けた傷はどうなるのか
  • 壁紙・フローリングの補修範囲
  • 家具跡と引っかき傷の違い
  • 傷を見つけたときにすること
  • 自分で補修してよいのか
  • 引っ越し前にできる簡単な傷予防

を、内装・修繕・原状回復の現場に30年以上携わってきた経験も踏まえて解説します。


結論|引っ越し作業で付けた傷は借主負担になることが多い

Q.引っ越し中に壁や床を傷つけました。退去費用を払いますか?

借主側の不注意などで付けた傷なら、借主負担になる可能性が高いです。

賃貸住宅の原状回復は、

退去するときに入居時とまったく同じ状態へ戻すこと

ではありません。

通常の生活で生じる損耗や経年変化については、原則として借主が修繕費を負担するものとは考えません。

しかし、

家具を壁へぶつけた。

タンスを床の上で引きずった。

大型家電を運ぶときにクロスを破いた。

物を落として床をへこませた。

といった損傷は、通常に生活していれば当然に発生するものとは別です。

国土交通省の原状回復ガイドラインでも、

引越作業等で生じた引っかきキズは、借主の善管注意義務違反または過失に該当する場合が多い

と整理されています。

ですから、

「退去時に見つかった傷=全部借主負担」

ではありませんが、

「引っ越し中だから通常損耗」

とも考えません。


まず「いつ・誰が・どうして付けた傷なのか」を確認する

傷を見つけたら、

傷があるという結果だけで判断しない

ことが大切です。

例えば同じ床の傷でも、

入居前からあった傷。

長期間普通に家具を置いてできたへこみ。

家具を引きずって付けた傷。

引越事業者が搬出中に付けた傷。

では考え方が違います。

まず確認したいのは、

  • いつ付いた傷なのか
  • 誰が作業していたのか
  • 何を動かしていたのか
  • どこへ家具や家電を通したのか
  • 引っ越し前の写真が残っているか

です。

原因が分からない場合は、

「たぶん自分が付けたと思います」

と決めつける必要はありません。

まず事実を確認します。


自分で家具を運んで付けた傷はどうなる?

Q.自分でタンスを運んでいて壁紙を破りました。借主負担ですか?

借主側の不注意で生じた傷なら、借主負担になる可能性が高いです。

例えば、

家具の角を壁へぶつけた。

床の上で重い家具を引きずった。

家電を倒して床を傷めた。

搬出時にドア枠や壁を削った。

といったケースです。

故意ではなくても、

注意していれば避けられた損傷

については、通常損耗とは分けて考えます。

ただし、

借主負担になることと、

請求された工事費をすべてそのまま負担すること

は別の話です。

傷の場所。

補修範囲。

仕上げ材。

経過年数。

などを確認する必要があります。


引越業者が付けた傷は「2つの問題」に分けて考える

ここは今回の記事で一番大切なところです。

Q.引越業者が壁や床を傷つけました。それでも私が払うのですか?

大家さんとの原状回復と、引越事業者との補償を分けて考える必要があります。

賃貸住宅側から見ると、

引っ越し作業によって部屋に傷が生じた

という問題があります。

一方で、

その傷を実際に付けたのが引越事業者であれば、

引越事業者との間では補償の問題

が生じます。

つまり、

「大家さんと借主」

と、

「借主と引越事業者」

は別の関係です。

国土交通省の資料では、引越業者が誤って付けた傷であっても、貸主との関係では原則として借主の原状回復の対象になると考えられています。
そのうえで、引越業者の過失による傷であれば、借主から引越業者へ修繕費などを請求できる場合があります。

ですから、
「大家さんへの原状回復」と「引越業者への補償請求」は別に考える必要があります。

国民生活センターにも、

引越事業者が養生をせず荷物を運び出し、廊下・階段のクロスや床、ドアなどに多数の傷が付いたという相談が寄せられています。

そのため、

「業者が付けた傷だから放っておけばよい」

とも、

「賃貸だから自分で全部払うしかない」

とも決めつけないでください。

引越事業者が作業中に付けたと思われる傷なら、

傷の状態を残し、できるだけ早く事業者へ連絡する

ことが大切です。

自分で付けた引っ越し傷と引越事業者が付けた傷の負担の考え方を比較する図

壁紙を破いたら部屋全部の張替え費用を払う?

Q.家具をぶつけてクロスを破りました。部屋全部の張替えになりますか?

傷を付けたからといって、当然に部屋全部の張替え費用を負担するわけではありません。

国土交通省の原状回復ガイドラインQ&Aでは、

不注意で壁クロスの一部に張替えが必要な傷を付けた場合でも、

経過年数を考慮したうえで、最低限可能な施工単位で修理する

という考え方が示されています。

クロスでは㎡単位が望ましいとされていますが、

色や柄などの問題から、

傷のある箇所を含む一面分まで

の張替え費用を借主負担としてもやむを得ない場合があるとされています。

また、壁紙は原状回復ガイドライン上、

6年で残存価値1円となるような考え方

で負担割合を算定します。

ただし、

6年以上住んだから何を壊しても1円で済む

という意味ではありません。

壁紙の傷については、「賃貸の壁紙が破れたら請求される?退去費用・6年ルールと張替え範囲を解説」で詳しく解説しています。

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床へ引っかき傷を付けたら全面張替えになる?

家具や大型家電を引きずると、

床へ長い線状の傷が付くことがあります。

この場合も、

傷が一つある=部屋の床全部を新品へ交換

とは一律に判断しません。

確認するのは、

フローリングなのか。

クッションフロアなのか。

カーペットなのか。

傷はどこまで続いているのか。

補修できるのか。

張替えが必要なのか。

です。

原状回復ガイドラインでは、床材によって負担単位や経過年数の扱いも異なります。

例えばフローリングの補修とクッションフロアの張替えでは、同じ考え方ではありません。

「床に傷が残った場合の借主負担、部分補修・全面張替え、6年ルールの考え方は、『賃貸のフローリングの傷は借主負担?』で詳しく解説しています。」

賃貸のフローリングの傷は借主負担?全面張替え・退去費用と6年ルールを解説 
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「家具の跡」と「引っ越しで付けた傷」は別

ここは勘違いしやすいところです。

Q.家具を動かしたあと床に跡があります。引っ越し傷になりますか?

跡があるというだけでは判断できません。

国土交通省の原状回復ガイドラインでは、

家具を普通に設置したことで生じた床・カーペットのへこみや設置跡

は、通常損耗として整理されています。

一方、

家具を動かすときに引きずって付けた傷。

家具を倒して付けたへこみ。

大型家電を滑らせて削った傷。

などは別です。

つまり、

家具があった場所に跡が残った

ことと、

家具を動かして傷を付けた

ことは分けて考えます。

家具の設置跡との違いについては、「賃貸の家具跡・床のへこみは請求される?ベッド・タンス・冷蔵庫の設置跡と退去費用」で詳しく解説しています。

賃貸の家具跡・床のへこみは請求される?ベッド・タンス・冷蔵庫の設置跡と退去費用
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傷を見つけたら、まず写真を撮る

引っ越し中に傷を見つけたら、

すぐに補修する前に、まず状態を残してください。

撮っておきたいのは、

傷のアップ。

傷の周囲。

部屋全体から見た傷の位置。

家具や家電との位置関係。

搬出経路。

です。

引越業者が作業している場合は、

作業終了後まで待たず、その場で傷を確認できれば写真を残して事業者へ伝える

ほうがよいでしょう。

時間が経ってから傷を見つけると、

引っ越し前からあったのか。

引っ越し作業で付いたのか。

退去準備中に付いたのか。

判断しにくくなります。

国民生活センターも、引越トラブルへの備えとして、

引越前後の状況を記録しておく

よう案内しています。


引越業者が付けたと思ったら管理会社と事業者の両方へ確認する

引越事業者が作業中に付けた傷だと思われる場合は、

まず、

傷を撮影する。

作業員へ伝える。

事業者へ連絡する。

見積書・契約書・約款などを保管する。

という対応をします。

賃貸住宅であれば、

管理会社・貸主側へも傷が付いたことを伝えておく

ほうが後から確認しやすくなります。

このとき、

「引越業者が全部直してくれるはずだから、大家さんには言わなくていい」

と自己判断するのはおすすめしません。

逆に、

「管理会社から請求されたので、とりあえず自分で払って終わり」

とも急がないでください。

誰が付けた傷なのか。

どこまで修理が必要なのか。

引越事業者はどのように対応するのか。

を確認します。

事業者との話し合いで解決しない場合は、消費者ホットライン「188」から最寄りの消費生活センター等へ相談する方法もあります。


入居前からあった傷まで自分の傷にしない

引っ越し当日は、今まで家具で隠れていた場所も見えるようになります。

そこで古い傷を見つけ、

「こんなところに傷がある。自分が付けたのかな?」

と思うこともあります。

しかし、

退去時に初めて気付いた=自分が付けた

とは限りません。

入居時の写真。

管理会社へ提出したチェックシート。

過去に撮影した室内写真。

などが残っていれば確認してください。

入居時の写真については、「賃貸の入居時に写真を撮るべき場所は?退去費用トラブルを防ぐ撮影ポイント」で詳しく解説しています。

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自分で補修してから退去したほうが安い?

Q.小さな傷なので補修材で直しておけばいいですか?

自己判断で補修することはおすすめしません。

一見簡単に見える傷でも、

壁紙と色が合わない。

補修材だけ光って見える。

床の表面をさらに削ってしまう。

補修部分がかえって目立つ。

といったことがあります。

また、賃貸借契約で、

原状回復工事を貸主や指定業者が行うことになっている場合もあります。

国土交通省の原状回復ガイドラインQ&Aでも、契約内容によっては借主自身や借主が指定した業者が勝手に原状回復工事をできない場合があると説明されています。

ですから、

まず写真を残し、契約や管理会社の対応を確認する

ことをおすすめします。


予防のひとこと|引っ越し前の「数分の確認」で防げることがある

引っ越しの傷を防ぐために、特別な技術が必要なわけではありません。

自分でできる簡単な対策があります。

まず、

荷物を運ぶ前に壁と床を写真に撮っておく。

これだけでも、

「この傷は前からあったのか」

を後から確認できます。

次に、

大きな家具を通す経路を先に見る。

廊下。

曲がり角。

ドア。

壁の角。

階段。

などです。

家具がギリギリ通る場所で、

その場になって無理に向きを変えると傷を付けやすくなります。

また、

床の上で家具をそのまま引きずらない。

重くて持てない場合は、無理に一人で動かさず、人を増やす、分解できる家具なら分解する、引越事業者へ任せるなどの方法を考えます。

床や壁の角など傷が付きやすい場所は、作業前に養生しておくことも予防になります。

そして養生したから安心と思わず、

作業途中でずれていないかを見る。

これも大切です。

難しいことではありません。

「運ぶ前に写真を撮る」
「どこを通るか見る」
「引きずらない」

壁の角を保護する時や床に仮置きする場合など
専用の養生材がない場合は、段ボールなどで一時的に保護する方法もあります。
ただし、作業中にずれたり滑ったりしないよう、養生テープなどで固定し、足元の安全も確認してください。

傷を付けてしまってから後悔しないよう、まずはこの3つだけでも意識しておくと、引っ越し傷を防ぐ意識はかなり変わります。

引っ越し前の写真撮影や養生など壁と床の傷を防ぐ簡単な予防策の図

職人目線|傷だけでなく「家具が通った道」を見る

引っ越し後の傷を確認するとき、

私は傷だけを見るのではなく、

その家具や家電がどこを通ったのか

という搬出時の動線も確認します。

例えば、

壁の角。

ドア枠。

巾木。

廊下の曲がり角。

床。

です。

大きな家具を運び出した場合、

傷が付いた高さ。

傷の向き。

家具の角が通った位置。

搬出経路。

などが原因を考える手掛かりになることがあります。

ただし、

傷の形だけで「これは引越業者が付けた」と断定できるわけではありません。

だからこそ、

引っ越し前後の写真。

作業していた時間。

家具の位置。

その場にいた人。

などの情報も合わせて確認します。

現場では、

「傷がある」だけではなく、「どうやってこの傷が付いたのか」

を見ることが大切です。

引っ越し後の壁や床の傷と家具の搬出経路を確認する職人の図

NG行動|引っ越しで傷を見つけたときに避けたいこと

「小さい傷だから分からないだろう」と隠す

おすすめしません。

自己流の補修で、かえって修理範囲を広げることがあります。

引越業者が付けたと思うのに写真を残さない

おすすめしません。

時間が経つほど、いつ付いた傷なのか確認しにくくなります。

家具の跡も引っかき傷も全部同じだと思う

違います。

通常の家具設置によるへこみと、引っ越し作業で付けた傷は分けて判断します。

借主負担と言われたので全面張替え費用をそのまま払う

すぐには判断しないでください。

傷の範囲、補修方法、経過年数などを確認します。

6年以上住んだから壁紙の傷も全部0円だと思う

違います。

6年は「何をしても負担がなくなるルール」ではありません。

引越業者が付けた傷だから管理会社へ言わなくてよいと考える

おすすめしません。

賃貸住宅側の原状回復と、引越事業者への補償は別に整理しておいたほうがよいでしょう。


⑮ Q&A|引っ越しで付けた壁・床の傷

Q.家具を壁にぶつけて少しクロスが破れました。払いますか?

借主側の不注意による傷なら、借主負担になる可能性があります。

ただし、補修範囲や経過年数を確認してください。

Q.タンスを動かしたら床に線状の傷が付きました。家具跡ですか?

通常の家具設置跡とは分けて考えます。

引きずって付けた傷なら、引っ越し作業による損傷として借主負担になる可能性があります。

Q.引越業者が壁を傷つけました。私が修理費を払いますか?

貸主との関係では、原則として借主の原状回復の対象になると考えられます。

ただし、引越業者の作業によって付いた傷であれば、借主から引越業者へ修繕費などを請求できる場合があります。

傷を写真に残し、管理会社と引越業者の両方へ早めに連絡してください。

Q.引っ越し後に傷を見つけました。業者が付けたのか分かりません。

これだけでは判断できません。

引っ越し前の写真や傷の場所、搬出経路などを確認してください。

Q.小さい傷なのでホームセンターの補修材で直してもいいですか?

自己判断での補修はおすすめしません。

契約内容を確認し、まず管理会社へ相談してください。

Q.壁紙に1か所傷を付けただけで部屋全部の張替えになりますか?

一律にはなりません。

国土交通省のガイドラインでは、可能な限り損傷部分に限定し、最低限可能な施工単位で考えることを基本としています。


まとめ|「誰が付けた傷か」と「誰が最終的に負担するか」を分けて考える

引っ越し作業で壁や床に付けた傷は、

通常の家具設置跡や経年変化とは違い、

借主負担になることが多い損傷です。

しかし、

傷を付けたのが引越事業者の場合は、

大家さんとの原状回復

と、

引越事業者との補償

という2つの問題があります。

そのため、

「賃貸だから全部自分で払う」

とも、

「業者が付けたから自分には関係ない」

とも決めつけないでください。

傷を見つけたら、

まず写真を撮る。

引っ越し前の状態と比べる。

管理会社へ伝える。

引越事業者が関係しているなら事業者へも連絡する。

補修範囲と費用を確認する。

という順番で整理していきましょう。

そして傷を防ぐために、

特別な技術は必要ありません。

引っ越し前に写真を撮る。

家具を通す場所を確認し、
ぶつかりそうな場所を事前に把握する。

床の上で家具を引きずらない。

こうした小さな確認から始められます。

退去の直前は忙しくなります。

だからこそ、

「運び始める前に数分確認する」

ことが、壁や床の傷を防ぐ一番簡単な予防になります。

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