賃貸の善管注意義務とは?水漏れ・カビの放置で借主負担になるケースと判断基準

賃貸住宅の善管注意義務について水漏れやカビを見ながら借主負担か考える女性のイラスト

賃貸住宅の退去費用について調べていると、

「善管注意義務違反」

という言葉を見かけることがあります。

管理会社から、

「これは善管注意義務違反なので借主負担です」

と言われた方もいるかもしれません。

でも、

「善管注意義務って、結局どこまで気を付ければいいの?」

と思いますよね。

先に結論をお伝えします。

善管注意義務とは、借りた部屋を新品のような状態に保ち続ける義務ではありません。

普通に暮らしていて発生する通常損耗や経年変化まで、すべて借主負担になるわけではありません。

一方で、

異常に気付いているのに放置したり、通常必要と考えられる手入れや連絡をしなかったことで被害を広げた場合

には、借主側の責任が問題になることがあります。

特に大切なのは、

「最初に何が原因で起きたのか」

と、

「その後どう対応したのか」

を分けて考えることです。

この記事では、善管注意義務とは何なのか、水漏れ・カビ・設備故障などを例に、現場目線から分かりやすく解説します。

通常損耗・経年変化と借主負担の基本から確認したい方は、こちらの記事も参考にしてください。

賃貸の原状回復とは?通常損耗・経年変化と退去費用の基本ルールを解説
賃貸の原状回復とは?入居時の新品状態に戻すことではありません。民法621条と国交省ガイドラインをもとに、通常損耗・経年変化・故意過失の違い、借主負担、6年ルール、特約、退去費用の確認方法を現場目線で解説します。

結論|善管注意義務とは「普通に注意して使う義務」

Q.善管注意義務とは、部屋をきれいなまま返す義務ですか?

違います。

国土交通省の原状回復ガイドラインQ&Aでは、賃借人には、

賃借人として社会通念上要求される程度の注意を払って賃借物を使用する義務

があると説明されています。

これが、

善良なる管理者の注意義務=善管注意義務

です。

難しく聞こえますが、賃貸住宅で考えれば、

「他人から借りている住宅として、普通に必要と考えられる注意をして使う」

というイメージです。

例えば、

  • 飲み物をこぼしたら拭く
  • 結露が出たらそのまま放置しない
  • 水漏れに気付いたら連絡する
  • 日常的に必要な清掃をする
  • 設備に異常があれば貸主・管理会社へ相談する

などです。

反対に、

毎日完璧に掃除することや、設備を新品の状態に維持することまで求められているわけではありません。


通常損耗と善管注意義務違反は違う

ここは混同しないことが重要です。

普通に暮らしていても住宅は少しずつ傷みます。

例えば、

  • 日光によるクロスの変色
  • 家具を通常設置した跡
  • 設備の経年劣化
  • 普通の使用で発生する軽微な損耗

などです。

こうしたものは、基本的には通常損耗・経年変化として考えます。

一方、

本来できたはずの手入れや対応をしなかったことで、通常より大きな損傷にしてしまった

場合には、善管注意義務違反が問題になります。

つまり、

「傷んだ」という結果だけでは判断できません。

なぜ傷んだのか。

いつ異常に気付いたのか。

その後どう対応したのか。

ここを見る必要があります。


一番大切|「最初の原因」と「放置して広がった損害」を分ける

私は、この考え方が善管注意義務を理解するうえで非常に大切だと思っています。

例えば、古くなった給水管から突然水が漏れたとします。

配管そのものが経年劣化によって故障したのであれば、

最初の故障原因まで借主の責任とは限りません。

賃貸住宅の使用に必要な修繕は、原則として貸主側の義務とされています。

しかし、

水漏れに気付いていたのに数日間そのままにして、

床材や壁、下地、さらに階下まで水が回ってしまった。

となれば話が変わってきます。

配管が壊れた責任

と、

知らせずに放置して被害を広げた責任

は別に考える必要があります。

民法でも、賃借物が修繕を必要とする場合、借主は遅滞なく貸主へ通知することが定められています。

ここを一言でまとめると

「壊れたこと」と「壊れたあとにどうしたか」は別問題です。

設備の水漏れ原因と放置によって広がった損害を分けて考える善管注意義務の図

水漏れ|設備の故障なら全部貸主負担?

Q.貸主の設備から水漏れしたなら、全部貸主負担ですか?

それだけでは判断できません。

例えば貸主設備の老朽化による水漏れなら、

最初の故障そのもの

については借主の責任ではない可能性があります。

しかし借主が水漏れを確認しているのに、

  • 連絡しなかった
  • そのまま使い続けた
  • 水を拭き取らなかった
  • 床や壁への被害を放置した

ことで損害が広がった場合、

拡大した部分について借主側の責任が問題になる可能性があります。

だから水漏れを見つけたら、

原因を自分で断定するより、まず止められる範囲で被害を抑え、貸主・管理会社へ連絡してください。

トイレの詰まりや水漏れについて、設備故障と借主の使い方をどう分けて考えるのかはこちらで詳しく解説しています。

賃貸のトイレの詰まり・水漏れは誰が払う?借主負担になるケースと修理費の判断基準
賃貸のトイレが詰まった・水漏れしたとき修理費は誰が払う?異物など借主負担になるケース、設備の経年故障や配管不具合など貸主側となるケース、管理会社へ連絡する順番、退去後に請求された場合の確認方法を現場事例とともに解説します。

洗濯機まわりの水漏れでも、水漏れの原因そのものと、気付いたあとに被害を広げた責任は分けて考える必要があります。 給水ホース・排水ホース・住宅側の水栓など、原因別の判断はこちらで詳しく解説しています。

洗濯機の水漏れで床が傷んだら誰が払う?賃貸の修理費と連絡方法
洗濯機の水漏れで床が傷んだら修理費は誰が払う?給水ホース・排水ホース・水栓など原因別に借主負担と貸主負担を整理。水漏れ時の連絡手順、階下への漏水、床の補修範囲、簡単にできる予防策まで現場目線で解説します。

カビ・結露|カビが出ただけで善管注意義務違反?

Q.部屋にカビが出たら借主の善管注意義務違反ですか?

違います。

カビや結露は、

  • 建物の断熱性能
  • 換気
  • 室内外の温度差
  • 湿度
  • 部屋の使い方

など複数の原因が関係します。

ですから、

カビがある=借主の責任

とは判断できません。

一方、国土交通省のガイドラインでは、

結露が発生しているのに貸主へ知らせず、拭き取るなどの手入れもせず放置してカビやシミを拡大させたケース

は、借主側の善管注意義務違反と判断されることがある例として示されています。

大切なのは、

カビが発生したことそのものより、その原因と発生後の対応です。

カビは原状回復の対象?借主負担になるケースと判断基準を解説
賃貸で発生したカビは原状回復費用として請求されるのか?結露・換気不足・掃除不足など原因ごとの負担の考え方を、国土交通省ガイドラインと現場経験をもとに解説。退去時に損しない判断ポイントも紹介します。

エアコンから水漏れしたら?

エアコンも同じ考え方です。

例えば備え付けエアコンの経年劣化や故障で水が漏れ始めた。

この故障原因そのものは貸主側で修繕すべき場合があります。

しかし、

水が壁を伝っていることに気付いているのに長期間放置し、

クロスだけでなく石膏ボードまで傷んでしまった。

その場合には、

故障したエアコン

と、

放置して広がった壁の損傷

を分けて考える必要があります。

エアコンの汚れ・故障は誰の負担?賃貸の原状回復で借主負担になるケースと判断基準
賃貸のエアコンの汚れや故障は借主・貸主どちらの負担?国土交通省の原状回復ガイドラインをもとに、通常の汚れ、内部洗浄、経年劣化による故障、借主の手入れ不足など、負担が分かれるケースを職人目線で解説します。

日常清掃をしなかったら善管注意義務違反?

Q.掃除をしていなかったら全部借主負担になりますか?

いいえ。

ここも程度によります。

生活していれば多少の汚れは付きます。

通常の清掃をしていても残る通常損耗まで借主負担になるわけではありません。

一方で、

  • キッチンの油汚れを長期間放置した
  • 浴室のカビをまったく手入れしなかった
  • トイレの汚れを長期間放置した
  • 水分をこぼしたまま床へ染み込ませた

など、

通常必要と考えられる手入れをしなかった結果、特別な清掃や補修が必要な状態になった

場合には、善管注意義務違反が問題になることがあります。

国交省ガイドラインでも、風呂・トイレ・洗面台の水垢やカビなどについて、使用期間中の清掃・手入れを怠った結果発生した場合は、借主側の善管注意義務違反と判断されることが多いとしています。


では、借主はどこまで対応すればいい?

難しく考えすぎる必要はありません。

異常を見つけたら、次の4つを意識してください。

① 被害を広げない

水が漏れているなら、可能な範囲で水を止める・拭くなどします。

危険な作業はしないでください。

② 写真を撮る

全体。

発生場所。

損傷部分。

できれば複数枚残します。

③ 貸主・管理会社へ連絡する

自分で原因を決めつける必要はありません。

「いつ気付いたか」

「どのような状態か」

を伝えます。

④ 指示を確認する

勝手に分解したり、工事したりせず、まず対応方法を確認します。

国民生活センターも、設備の不具合や雨漏り・水漏れなどが起きたときは、すぐに貸主側へ連絡・相談するよう案内しています。

賃貸住宅で水漏れや故障を見つけたときの被害防止・写真・連絡・確認の4ステップ

連絡した証拠は残したほうがいい?

Q.管理会社へ電話すれば十分ですか?

電話だけでも連絡にはなりますが、記録も残しておくことをおすすめします。

例えば、

  • メール
  • 管理会社のアプリ
  • SMS
  • 問い合わせフォーム

などです。

電話した場合も、

「○月○日、○時頃に水漏れについて連絡」

と簡単にメモしておくとよいでしょう。

退去時になって、

「いつから漏れていましたか?」

「連絡を受けていません」

という話になることがあります。

異常を報告していたことが確認できれば、

発見後に放置していたのか

を判断する材料にもなります。


善管注意義務違反と言われたら、すぐ認める必要はない

退去立会いや請求書で、

「善管注意義務違反です」

と言われることがあります。

しかし、その言葉だけで負担が決まるわけではありません。

次を確認してください。

  1. どこが損傷しているのか
  2. 原因は何なのか
  3. いつ発生したと考えられるのか
  4. 借主は異常を認識できたのか
  5. 発見後に連絡したか
  6. 放置によってどこまで被害が広がったのか
  7. どこまで補修する必要があるのか
  8. 契約・特約はどうなっているのか
  9. 実際の請求金額はいくらなのか

特に、

「善管注意義務違反だから全面交換」

と一気に結論を出さないことが大切です。

善管注意義務違反があったとしても、

必要な補修範囲や経過年数、負担額は別に確認します。

契約書の特約を理由に借主負担と言われた場合は、特約の内容・範囲・合意についても確認してください。

賃貸の原状回復特約はどこまで有効?「契約書に書いてある=払う」ではない判断基準
賃貸の原状回復特約はどこまで有効?「契約書に書いてあるから全部借主負担」とは限りません。通常損耗、クリーニング特約、6年ルール、サイン済みの場合など、特約の確認ポイントを国交省ガイドラインと現場目線で解説します。

職人目線|「放置した」と簡単には判断できない

現場では、

傷んでいる場所だけを見て「放置しましたね」と決めることはできません。

例えば床が水で傷んでいても、

昨日突然漏れたのか。

数週間前から少しずつ漏れていたのか。

床下から漏れていて借主には見えなかったのか。

壁の中で漏れていたのか。

以前から貸主へ連絡していたのか。

それによって話は変わります。

カビも同じです。

黒くなっているからといって、

「掃除不足ですね」

とはすぐ判断できません。

建物側の結露。

漏水。

断熱不足。

換気設備の不具合。

などが関係していることもあります。

現場で見るのは、

結果だけではなく、原因と経過です。

私は、

「いつ気付けたのか」
「気付いてから何をしたのか」
「その対応で防げた範囲はどこまでか」

を見ることが大切だと思っています。

現場の職人が水漏れによる傷みの原因・発見時期・対応・被害範囲を確認する職人目線の図

よくあるNG行動

「設備の故障だから自分には関係ない」と放置する

違います。

設備の修理責任が貸主側でも、異常を知ったら連絡することが大切です。

自分で原因を決めつけて修理する

おすすめしません。

原因が違えば悪化することがあります。

まず貸主・管理会社へ相談してください。

「カビだから全部借主負担」と思い込む

違います。

原因を確認する必要があります。

「普通に住んでいたから何をしても通常損耗」

違います。

必要な手入れを怠って損害を拡大させた場合には、借主負担が問題になることがあります。

「善管注意義務違反と言われたから全額払う」

違います。

原因・補修範囲・経過年数・契約内容・金額を確認してください。


Q&A|賃貸の善管注意義務

Q.水漏れにすぐ気付けなかったら善管注意義務違反ですか?

それだけでは判断できません。

壁の中や床下など、通常生活では気付きにくい漏水もあります。

いつから異常があり、借主がいつ認識できたのかを確認する必要があります。

Q.水漏れを見つけてすぐ管理会社へ連絡しました。それでも借主負担ですか?

原因によります。

設備の経年劣化など借主に原因がなく、発見後も適切に連絡しているのであれば、その事情を踏まえて判断します。

Q.結露を拭かなかったら借主負担になりますか?

場合によります。

一度拭かなかっただけで即借主負担になるという話ではありません。

しかし、結露を長期間放置してカビや腐食を広げた場合には、善管注意義務違反が問題になることがあります。

Q.設備が壊れたら自分で修理したほうがいいですか?

原則として、まず貸主・管理会社へ連絡してください。

修繕の必要がある場合には、貸主側が対応するケースがあります。

Q.善管注意義務違反なら修理費は全額借主負担ですか?

いいえ。

善管注意義務違反の有無と、実際に負担する補修範囲・金額は別に確認する必要があります。


まとめ|異常に気付いたら「放置しない・記録する・連絡する」

善管注意義務は、借りた部屋を新品のまま保つ義務ではありません。借りた住宅として普通に必要な注意を払い、異常があれば適切に対応することが大切です。

特に覚えておいてほしいこと

「最初の原因」と「その後の対応」は分けて考える
これが善管注意義務で一番大切なポイントです。

たとえば、設備が自然に故障した場合、
故障そのものは借主の責任とは限りません。

しかし、異常に気付いたあとで、

  • 連絡しない
  • そのまま使い続ける
  • 水漏れやカビを放置する

などして被害を広げた場合は、
広がった損害について借主側の責任が問題になることがあります。

つまり、確認する順番は次のとおりです。

① 何が原因で起きたか
② いつ気付けたか
③ 気付いたあとにどう対応したか
④ 被害がどこまで広がったか

水漏れや故障を見つけたら、

放置しない
記録する
連絡する

この3つを覚えておいてください。

確認すること考え方
設備が自然に壊れたそれだけで借主責任とは限らない
異常に気付いた放置せず、まず記録と連絡をする
連絡せず放置した広がった損害は借主責任が問題になることがある
判断するときに見ること原因、気付けた時期、対応、被害範囲

参考資料